海外不動産の売却を考える際、多くの人が直面するのが「条件」「税金」「手続きの複雑さ」です。日本国内での不動産売却とは異なり、海外不動産にはそれぞれの国の法律や税制、市場特性が関与します。
本記事では、海外不動産売却に関わる条件や税金、注意点から確定申告の方法までを詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
海外不動産の売却の条件

海外不動産の売却には、物件の種類や契約条件によって異なる手続きや注意点があります。事前にしっかりと把握しておくことで、スムーズに売却を進めることができます。
オフプラン物件の場合
オフプラン物件は、建設途中や建設前に販売される物件のことです。この場合、購入契約書に明記されている条件や制約が売却に直接影響します。
また、売却にはディベロッパーやその国の規制に従った条件が課される場合があります。例えば以下のようなケースがあります。
- 支払いが全体の50%以上進んでいなければ売却できない
- 物件を1年以上所有していないと売却できない
オフプラン物件は未完成の物件であるため、購入者にはまだ正式な所有権がありません。そのため、基本的には「ディベロッパーが設定したルールに従って売却手続きを進める」形になります。
ディベロッパーとしても、オフプラン物件が転売され続けることで価格が予想以上に高騰したり、管理が複雑になることを防ぐため、一定の条件を設けてたりしています。しかし一方で、購入者が資金的な問題を抱えた場合、建設資金が滞るリスクを避けるため、売却を認めるケースもあります。
レディプラン物件の場合
レディプラン物件は、すでに完成している不動産を指します。この場合、売却は比較的シンプルですが、物件の評価や地域市場の状況に応じた適切な計画が必要です。
- 登記の確認
売主が正式に不動産の所有権を持っていることが必要です。特に、所有権が第三者に移転している場合や、未登記の場合は売却手続きが難航することがあります。
- 不動産市場との整合性
レディプラン物件は市場価格に基づいて売却価格を設定することが大切です。購入時の価格が市場価格とかけ離れている場合、買主が現れにくくなります。
- 現地法規への遵守
各国の不動産法に基づく必要書類の準備や、売却手続きにおける法的要件を確認することが不可欠です。
- 設備や状態の評価
売却前に物件の設備や状態を評価することで、より高値で売却できる可能性があります。必要に応じて小規模なリフォームを行うことも検討しましょう。
海外不動産を売却した際にかかる税金
日本では海外不動産の売却で得た譲渡所得に対して所得税が課されます。譲渡所得は次の計算式で求められます。
収入金額 – (取得費 + 譲渡費用) – 特別控除額 = 課税譲渡所得金額
税率は不動産の所有期間によって異なり、以下の通りです。
- 短期譲渡所得(所有期間5年以下): 30.63%(所得税30%+復興特別所得税0.63%)
- 長期譲渡所得(所有期間5年以上): 15.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%)
これらを考慮して売却時の税負担を計算することが大切です。
参照:海外不動産にかかる税金について解説!確定申告や売却時の税金も – Wise
海外不動産を取得する際に必要となる税金
海外不動産を取得する際には、購入価格以外にもさまざまな税金が発生します。これらの税金は国や地域によって異なりますが、一般的に以下のような税金が課されることが多いです。それぞれの税金について詳しく解説します。
不動産所得税
不動産所得税は、取得した不動産に対して課される税金です。この税金は、不動産の評価額や購入価格に基づいて計算されることが一般的です。一部の国では、初回取得時のみ支払うケースもあれば、定期的に支払う形式をとる場合もあります。また、不動産の所在地によって税率が異なるため、購入前に確認が必要です。
印紙税
印紙税は、不動産購入時に交わされる契約書や登記書類に課される税金です。この税金の額は、契約書に記載される金額や不動産の価格に基づいて設定されることが一般的です。一部の国では、印紙税が免除されるケースもありますが、多くの場合、購入者が負担します。事前に必要な税額を確認し、適切に支払うことで契約の有効性を確保することが大切です。
登録免許税
登録免許税は、不動産の所有権を公的に登録する際に支払う税金です。この登録は、不動産所有権の法的保護を目的として行われます。
登録免許税は、不動産の評価額や購入価格の一定割合として計算されることが多く、手続きに関連する手数料と併せて支払う必要があります。この税金を適切に支払わなければ、不動産の所有権が正式に認められないリスクがあるため注意が必要です。
付加価値税
付加価値税(VAT)は、一部の国で不動産取引に課される間接税です。特に新築物件や商業不動産を購入する場合に適用されることが多いです。付加価値税の税率は国によって異なり、購入価格の数%〜20%以上に及ぶこともあります。
また、付加価値税が課税されるかどうかは、不動産の用途や購入者の属性(法人・個人など)によって異なる場合があるため、事前に確認が必要です。
海外不動産を保有時に発生する税金

海外不動産を保有している間には、所有者に対してさまざまな税金が課されます。これらの税金は、国や地域ごとに異なるため、それぞれの内容を正しく理解しておくことが大切です。
所得税
海外不動産から得られる収入には、所得税が課されることがあります。具体的には、不動産の賃貸収入や資産運用による利益が対象となります。課税額は、収入額に基づいて計算されるほか、国によっては諸経費を控除した後の利益に対して課税される場合もあります。加えて、所得税率は国ごとに異なり、累進課税が適用される場合もあるため、詳細の確認が必要です。また、法改正に伴い個人による損益通算はできませんが、法人の場合は簡便法という方法で、減価償却費での損益通算は可能です。
固定資産税
固定資産税は、不動産を保有している限り毎年発生する税金です。この税金は、物件の所在地の地方自治体によって課されることが多く、不動産の評価額を基準に計算されます。税率は地域によって異なり、一部の国では評価額が数年ごとに見直されることもあります。また、固定資産税に相当する税金が複数存在する場合があるため、現地のルールを理解することが大切です。
海外不動産を相続・贈与する際に発生する税金
海外不動産を相続または贈与する際にも、税金が発生します。これらの税金は、不動産の価値や受け取る人の条件によって異なるため、注意が必要です。
相続税
相続税は、不動産を相続した際に課される税金です。不動産の所在地の国と相続人の居住国によって、税率や計算方法が異なる場合があります。一部の国では、相続税が非課税となるケースもありますが、多くの場合、課税対象です。特に高額な不動産を相続する際は、相続税の負担が大きくなるため、事前の資産計画が求められます。
贈与税
贈与税は、不動産を生前に贈与する場合に課される税金です。贈与税の計算方法や免税枠は、国によって大きく異なります。例えば、一部の国では年間一定額までの贈与が非課税となるケースがある一方、高額の贈与に対して高い税率が適用される場合もあります。また、贈与者と受贈者の関係性や居住地によっても課税条件が変わることがあるため、専門家の助言を受けるのはおすすめです。
海外不動産の売却益の申告漏れが発生している
国内外に多くの資産を所有する富裕層による申告漏れが相次ぎ、過去最高の規模となっています。2023年6月までの1年間で、税務調査により約980億円の申告漏れが指摘され、統計開始以来の最高額となりました。
特に海外投資や取引に関連した事例が目立ち、国税当局は監視を強化しています。福岡国税局の調査では、1件あたりの申告漏れが平均2879万円に達し、1億円を超える案件も確認されています。
具体的な事例では、福岡県の医療法人役員が海外での不動産売却益などを含む約1億1900万円の所得を申告しておらず、約2100万円の追徴課税を受けました。また、福岡県の不動産会社代表取締役も、自社株売却益約2億4000万円を申告していなかったとして修正申告を行い、約4900万円の所得税を追徴課税されています。
国税庁の統計によると、富裕層に対する税務調査で確認された申告漏れ額のうち、海外投資関連が半数以上の514億円を占めています。同庁は国内12の税務局に「富裕層プロジェクトチーム」を設置し、各国の税務当局と連携して監視を強化しています。
一方、野村総合研究所の推計によれば、2021年時点で富裕層・超富裕層は約148.5万世帯に上り、10年前と比べて67.5万世帯増加。純金融資産は全国の約20%を占めています。このような背景を受け、国税当局は富裕層への監視をさらに徹底しています。
参照:「富裕層の申告漏れ」1年間で過去最高980億円…国税庁指摘、目立つ海外投資関連:地域ニュース : 読売新聞
二重課税を防ぐ!「外国税額控除」を利用しよう

海外不動産を売却する際には、売却益に対して現地国と日本の両方で課税される可能性があります。この場合、同じ所得に対して二重課税されることを防ぐために、「外国税額控除」を利用することがおすすめです。
外国税額控除とは、日本国内の所得税または住民税から、海外で支払った税金分を控除する制度です。この控除を適用するには、納税証明書などの必要書類を準備し、確定申告を行う必要があります。ただし、控除額には一定の限度が設けられているため、詳細を事前に確認することが大切です。
海外不動産の確定申告方法について
海外不動産に関する所得や売却益を正確に申告することは、税務トラブルを防ぐための基本です。特に外国税額控除を適用する場合、適切な申告が求められます。以下では、確定申告の具体的な手順を解説します。
① 必要な書類を準備する
海外不動産の収支や税金に関連する書類を事前に準備することが大切です。主な必要書類には、不動産収支明細書、現地での納税証明書、売買契約書、賃貸収入の領収書などがあります。これらの書類を基に、収入と経費を正確に計算しましょう。
② ソフトを活用して確定申告書を作成する
税務申告ソフトや国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用すれば、複雑な計算も効率的に進められます。外国税額控除を利用する場合は、対象となる税額を正確に入力し、必要な附属書類を添付することが求められます。ソフトを活用することでミスを減らし、効率的な申告が可能です。
③ 税務省に提出する
申告書が完成したら、所轄の税務署に提出します。提出方法には、紙媒体での提出と電子申告(e-Tax)の2つがあります。特にe-Taxを利用すれば、時間や手間を節約できるためおすすめです。また、期限内の提出を忘れないよう注意しましょう。
海外不動産を売却する方法
海外不動産を売却する際には、いくつかのステップを踏む必要があります。以下は一般的な売却手順です。
信頼できる不動産会社の選定
現地の不動産市場に詳しい信頼できる不動産会社を選ぶことが大切です。売却手続きに精通しているか、過去の実績を確認しましょう。
適切な価格設定
市場価格を調査し、物件の評価額に基づいて売却価格を設定します。価格が高すぎると売却が難しくなるため、現実的な価格を目指すことが大切です。
契約書の準備と交渉
売却条件が整ったら、購入希望者と契約を締結します。この際、専門家の助言を受けることで、トラブルを防ぐことができます。
税金手続きの確認
売却後に発生する税金について、事前に把握しておくことが大切です。現地の法律や日本国内での申告を漏れなく行いましょう。
海外不動産を売却する際の4つの注意点
海外不動産を売却する際には、いくつかのポイントを事前に押さえておく必要があります。以下に注意すべき点をまとめました。
信頼できる不動産会社に依頼する
海外不動産の売却には現地の不動産市場や法律の知識が必要です。経験豊富で信頼できる不動産会社に依頼することで、スムーズな売却が可能となります。
不動産サイトで自分で相場をリサーチする
売却価格の設定には、相場を把握することが不可欠です。現地の不動産サイトを利用して、類似物件の価格を調査しましょう。
不動産売却時にかかるコストを確認する
売却時には、不動産仲介手数料や税金、その他の諸費用が発生します。これらのコストを事前に計算し、純利益を正確に把握することが大切です。
売却するタイミングを考慮する
市場動向や季節によって売却の成功率が異なります。適切なタイミングを見極めることで、より高値での売却が可能になります。
まとめ
海外不動産を取得、保有、売却するまでのプロセスには、多くの税金や手続きが伴います。特に税金に関しては、二重課税を防ぐための「外国税額控除」の活用や、正確な確定申告が求められます。また、売却時には信頼できる専門家の協力を得ることで、スムーズかつ効率的な取引が可能になります。これらを踏まえ、計画的に海外不動産の運用を進めましょう。
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